エンジニアメンター1on1のやりかた

社内勉強会で発表した内容を外向けに編集して書きます。

ぼくが勤める会社では、エンジニアメンターという制度があります。

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エンジニアメンターは定期的に1on1を開催するのですが、1on1は突き詰めて考えていくととても難しいものです。それこそちゃんとやろうと思うと、コーチングの専門的なスキルが必要だったりするわけですが、エンジニアメンターが全員プロ並みのコーチングスキルを保有する必要があるかというと、そんなことは無いと思っています (マネージャーなどの管理職であればそれなりにちゃんと勉強しておいてほしいですが)。

そこで、社内勉強会でエンジニアメンター向けに、このくらいのポイントを抑えておけばいいですよ、というのを伝えました。

ポイントは2つだけ

エンジニアメンター制度における1on1は、コーチングなどの専門的なスキルを学んで取り組まなければならないようなものとは異なると考えています。ですので、あまり難しいことを考えても意味はありません。誰もが気軽に開催して、時々でいいので「やってよかったね」と思えるくらいで充分です。

抑えておくべき点は以下の2点です。

  • 1on1の目的など考えない
  • 決められた頻度で必ず開催する

それぞれ理由を説明します。

1on1の目的など考えない

1on1のそもそもの目的は、チームでの仕事や、日々のふりかえりなどでは拾いづらい個人にフォーカスがあたった問題を拾い上げることだと思います。では、ここでいう「問題」とはなにか。それはそれぞれの状況や人によって異なるので定義できるものではありません。

「なにか問題を拾い上げないと」という目的意識を持って1on1を開催するのも悪くはないですが、ではその問題がなにも見つからなければ1on1の意味はないということになってしまうのでしょうか。問題が何もなければ、今は平和でよかったね、で終われば良いはずですから、そういう意味でも1on1を開催する目的、などというものは深く考えずに気軽な気持ちで開催したほうがよっぽど有意義だと思います。

なので、ここではあえて「目的など考えない」としておきましょう。

決められた頻度で必ず開催する

定期開催こそが1on1の最大の意味

こちらが1on1にあたってはとても重要です。1on1をやると、隔週や毎月、といった頻度で相手を数十分程度拘束することになります。ただでさえ日常の業務で忙しいのに、相手の時間を奪ってしまって良いのだろうか、と悩んでしまう人も多いです。そうすると人によっては、毎回特に問題点などないから、わざわざ開催しなくてもよかろう、今月はスキップしようか、などとやってしまいがちです。

1on1において最も大事なのは、「何もしなくても自動的に定期的に場が発生する」ということです。仮になにか悩み事をかかえていたとして、その悩みは誰になら相談できるのかを考え、その人に声をかけて時間を作ってもらって相談する、という一連の動きはなかなか骨が折れるものです。ですが、そういった労力をかけずに自動的に会話の機会が発生すれば、ちょっと話してみようか、という気持ちになることもあります。

人間はさまざまな「相談先」を持ちます。上司や同僚、友人、家族などです。抱えている悩みに応じて相談先は変わるので、複数の窓口に気軽にアクセスできる環境がとても大切です。1on1は、その相談先の窓口が常に空いていて、放っておいても自動的にその機会が訪れる、という状態そのものに最大の意味があります。

単純接触効果

もうひとつ、定期開催には重要な意味があります。

単純接触効果という言葉があります。ザイアンスの単純接触効果とか、熟知性の原則、となどで検索すると専門的な情報にアクセスできます。 これは、人間は接触する機会の多いものに対して親近性を高める、という社会心理学の分野で研究されているものです。

同じ"3時間"という時間でも、年に1回3時間会うのと、35日連続で5分ずつ会うのでは後者のほうが親しみが湧きます。

1on1は悩み事を相談する場であると書きましたが、あまりお互いのことを良く知らない同僚に深い相談ができるだろうか、という懸念はこれによって払拭されます。

仮に隔週で15分ずつ1on1を開催すると、1年でおよそ25回程度の頻度で接触機会があります。仕事上の問題を相談するという程度の、エンジニアメンター1on1の場では充分すぎる回数です。

人見知りの人など、1on1に抵抗がある人も少なくないと思いますが、最初の3, 4回我慢すれば単純接触効果によって特に気にならなくなりますから、こういう意味でも定期的に「必ず」開催することに意味があります。