自分がまさに中間管理職ど真ん中なので、中間管理職の仕事を可能な限り自分なりに言語化してみようと思い、ざっくばらんに思ったことを書いていく。
今回は、情報伝達について。
組織がコンパクトであれば、中間管理職など必要はない。トップの意思がダイレクトに末端までスムーズに伝わるからだ。 組織が大きくなるにつれ、情報の伝達はスムーズにいかなくなる。
帝人の元会長である安居祥策氏が、日本経済新聞に寄稿した記事で記した「√の法則」というものがある。
100人の社員に物事を理解してもらおうと思えば、√100=10 として10回同じ説明をする必要がある。 10,000人の社員が相手になれば、100回になる。
多くの人に自分の考えを理解してもらうためには、このくらい同じ説明を何度も繰り返す必要があるということだ。全社員が集まる集会で、1回説明すれば明日からすべての社員がそのように動く、ということはない。
これはあくまでも考えの目安であるが、だいたい直感とも一致する。
とはいえ、社長がいちいち同じ話を繰り返すのも効率が悪い。そこで、我らが中間管理職の登場となる。
社長が10人のマネージャーに説明をする。10人のマネージャーはそれぞれ10人の部下に同じ話をする。これを繰り返しながら、組織全体に情報を伝播するのだ。
しかし、間に立つ中間管理職は、右から左に情報を流すだけで良いだろうか?もちろんそんなことはない。それぞれの管理職が担当する部門は、それぞれ職種はバラバラで、役割も異なる。トップの意思を、自分が担当する部門の目的に応じてアレンジをして伝える必要がある。
中間管理職は、上からの指示を、自分の担当する仕事内容に応じてカスタマイズして扱う必要があるということだ。
では、中間管理職が、自分の裁量で情報をカスタマイズするには、なにを手がかりにすればよいのか。カスタマイズの方向性をしくじると、トップの指示は歪んで伝わってしまう。
そこで重要なのが、その情報を伝達する「理由や目的」である。いわゆる「Whyからはじめよ」というやつである。
少し極端な例を考えてみる。
トップから、ある目的を達成するために我が社ではA, B, Cの3つの施策を行う必要がある、という指示が出る。
エンジニアリング部門のマネージャーは、その目的を達成するためには自部門ではAとBに注力せねばならない。Cは自部門にとってそれほで重要ではないので、部下への指示は簡略化してよいと判断した。
セールス部門のマネージャーは、その目的から、Cに注力する必要があると判断し、AとBについては部下への伝達を簡略化した。
これが、情報伝達のアレンジである。
トップから、施策の目的が伝えられていない場合どうなるか。
マネージャーは、自らの裁量で情報をアレンジするてがかりを持たないため、上からの指示をそのまま現場に伝える。すると、エンジニアリング部門は本来気にする必要のないCにも力を割く必要があるし、セールス部門はAとBに余計なリソースを割くことになる。
要するに、現場としては本来やる必要のない無駄な仕事に忙殺されることになる。
現場からは当然クレームが出る。AとBをやる必要があるんですか? と。マネージャーはそれに対してメンバーに説明する術を持たない。マネージャーにできることは、まぁまぁと現場をなだめることくらいである。
この場合、マネージャーは自分の上長に「これをやる目的はなんですか?」と質問をしているかもしれない。しかし巨大な組織で、上長からも要領を得ない回答がきてしまうとお手上げである。
つまり、中間管理職が情報伝達という仕事を十分にやりとげるためには、トップの情報の中のWhyの部分が最も重要となる。それがあってはじめて、自部門になにを期待されており、自部門はどういうアウトカム、あるいはアウトプットを出せばよいのか、という期待が揃うことになる。
自分がなんのためにその仕事をしているのか、中間管理職として、これを常に説明できる状態にしておけるように振る舞いたい。