トヨタ生産方式を構成する要素の1つとしてよく知られている「なぜなぜ分析」や「5回のなぜ」と呼ばれるエラー発生時の分析手法がある。
インターネットを見ていると、この手法を快く思わない人たちの意見をたびたび目にする。「精神的に追い詰められている気持ちになる」とか、「突き詰めると『ミスをしないように気をつける』にしかならない」といった言説を見かける。
正直なところ、自分も苦手だなと思っていた時期があった。なぜなぜ分析は、人の振る舞いにフォーカスを当てすぎてはいけない。それをしてしまうと「個人を詰める」ような結果になり、問題の原因にまでたどり着けないからだ。
大野耐一が著書『トヨタ生産方式 脱規模の経営をめざして』でなぜなぜ分析をこのように表現している。
科学的接近の態度の累積と展開
これは「なぜなぜ分析」の正しいやり方を端的に説明した素晴らしい表現であると思う。
「なぜなぜ分析」は、ヒューマンエラーが発生した際に実施されると、個人にフォーカスが向きがちになってしまう。では、ヒューマンエラーの原因究明のよいやり方とはなんであろうか。
JAXAによる『ヒューマンファクタ分析ハンドブック』
以下に紹介するのは、「JAXA共通技術文書」というサイトで、JAXAによる宇宙機の開発にまつわるさまざま事が公開されている知の宝庫である。
JAXAが開発する宇宙機は、一度打ち上げてしまうと二度と修理を行うことはできない。ソフトウェアのアップデートによっていくらか不具合を改善することはできるが、ハードウェアに手を入れることは難しい。できる限りエラーが混入しないように開発をして、打ち上げ・運用をする必要があるプロダクトのノウハウの蓄積が、こうして一般に公開されている。
その中の『ヒューマンファクタ分析ハンドブック』が、まさにヒューマンエラーの原因究明の手引きであり、この文書の中に「なぜなぜ分析」も登場する。
ヒューマンエラーは大きく以下の2種類に分類できる。
- オミッションエラー(Omission Error):すべきことをしない(省略する)
- コミッションエラー(Commission Error):してはいけないことをする(間違い)
これらはいずれも、その行為が意図せず行われたことを指している。一方で「面倒」「よかれと思って」など意図的になされたものはヒューマンエラーではなく「違反」とされる。違反であっても、「不必要な作業や手順」「手続きのわずらわしさ」といった構造的な問題が潜んでいることがあり、個人にフォーカスをあてすぎずに組織的な問題としてヒューマンエラーと同様に構造面での対策をとる必要がある。
ヒューマンエラーの要因はさまざまあって、個人の要因の他にもシステムや組織の構造、作業環境などに要因があるケースがある。たとえば、データを削除するボタンが、改ページのボタンのすぐ隣にあれば、ただ改ページをしたいだけなのに誤ってデータを削除してしまうという事故がおきやすい。その場合は「作業者が削除ボタンを押さないように注意する」ではなく、「削除ボタンを手が届きにくい位置に移動する」というのが対策として正しい。
詳しくは、このハンドブックを読んでいただくのがよいが、このようにヒューマンエラーを適切に分類し、その周辺の事象を良く観察して、個人ではなくて環境や構造に着目して掘り下げることが、ヒューマンエラーの分析として重要である。
まさに、「科学的接近の態度の累積と展開」を行う必要があるのだ。




















