RSGT2023でDJをしました(?)

今年のRSGT2023でkyon_mmさんのサポートとして登壇をしました。

confengine.com

ぼくの担当はセッションの内容にあわせてBGMを流す、というもので、「スクラムのカンファレンスでDJをする」という世界でもそんなに何人もいないであろう体験をしたので、その様子を書き残しておきます。

DJって何をする人なの?

RSGTでの話に入る前に、簡単にDJについて説明します。詳しい人は読み飛ばしてもらっても大丈夫です。

DJとは、簡単に言うと「その場をいい感じにするための音楽を流す人」です。たとえばクラブDJなら、人が踊りやすい音楽を鳴らしますし、結婚式のDJなら「お祝いの雰囲気が出る音楽を鳴らす」という感じです。

この「その場にあわせた音楽を鳴らす」ためにDJはいろいろな工夫をします。

たとえば、クラブDJを考えてみます。フロアにいる人たちは音楽にあわせて踊りたくて集まっています。ですのでDJは「踊れる楽曲」をフロアに流すわけですが、少し問題があります。

皆さんのお手元の音楽ライブラリを見ていただくとわかりますが、音楽にはだいたい5分とか、10分とかの長さがあります。これを普通に流してしまうと、下の図のように楽曲の境目で一瞬音が止まったり、「あ。今曲が切り替わったな」とはっきりと気づかれたりしてしまいます。

そこでDJは、一時的に2つの楽曲を重ねて流すことで、音楽が途切れないようにします。

異なる楽曲を同時に流すと違和感がありますが、そこがDJの腕の見せどころです。曲のテンポを揃える。高音・中音・低音それぞれのバランスを調整する。といったことを行い、2種類の曲が同時に鳴っていても違和感のないようにします。

DJが片耳だけヘッドフォンをつけている映像を見たことのある人もいるかと思いますが、あれは次の曲をヘッドフォンに流しながら、フロアに今流れている曲と混ぜて違和感が出ないように調整している最中の様子です。

DJの手元には一般的に2つのターンテーブルがついた謎の装置が置かれてます。これがDJコントローラです。

これを使って1曲目を左のテーブルで流す。2曲目を右のテーブルにセットする。1曲目の後半で2曲目の冒頭を流す。1曲目が止まったら、3曲目を左のテーブルにセットする。ということを延々と繰り返します。曲を違和感のないように混ぜるために、音にいろいろな工夫をする必要がありますが、DJコントローラについている複数のつまみはそれをやるための装置です。

このようにして、まるで数十分の長い1つの曲が流れ続けているかのようにフロアに音を鳴らし続けます。それによってお客さんは違和感なく、ずっと踊り続けることができるのです。

これがDJの基本です。

たとえば、今回のRSGTでは用意した楽曲がkyon_mmさんのトークに対して尺が短いような場合、複数の曲を混ぜてトークの尺に長さを合わせる、といったことをやりました。

権利関係はどうしたの?

ここからRSGTでの話に入ります。

RSGTのようなイベントで音楽を扱う際にはいくつかクリアしないといけない権利関係があります。著作権と原盤権です。

特にRSGTは現地での演奏と、アーカイブの配信があり、それぞれ権利処理は別になります。

著作権は、皆さんもおそらくご存知のJASRACという団体が多くの楽曲に対して一元的に権利処理を扱ってくれますので、ここに申請します。アーカイブが配信されるYouTubeは、サービスとしてJASRACとの契約を有しているので、我々演奏者が特別なことをする必要はありません。現地の会場での演奏についてのみ、申請をすれば大丈夫です。

原盤権はあまり馴染みがないかもしれませんが、DJの場合は楽器を演奏するのとは違って、CDとして販売されているような音源を直接再生することがあります。こうした既存の音源の製作者が保有しているのが原盤権です。これはJASRACのように包括して処理してくれる団体が存在しないため、楽曲制作者と個別に交渉する必要があります。

今回は、BGMとしての使用・配信が自由に許可されているフリーの音源と、知人があらかじめ演奏している音源を許可を得て利用させてもらうことでクリアしました。

事前の準備や練習

今回、この登壇に関わるメンバーはそれぞれ居住地が遠く離れているため、練習はすべてオンラインで行いました。

主にkyon_mmさんのトークとのタイミングを合わせる練習をするのですが、インターネットを使った通信には遅延が生じます。会議での会話をする分には気になりませんが、タイミングが非常にシビアな音楽の演奏の場合、この遅延は致命的です。

特に今回の発表では、ぼくのDJで再生するリズム音源と、ギターの生演奏を合わせる、というパートがあり、その練習がオンラインではとても難しかったです。

YAMAHAが提供するSYNCROOMという、オンラインで楽器演奏の練習をするツールがあり、あるときこれを利用したのですが、意外となんとかなるレベルでタイミングをしっかり合わせることができました。

syncroom.yamaha.com

当日の誤算

発表前日に会場で機材のセッティングを行いました。

前日なので、会場にお客さんは入っていません。この状態で各パートの音量調整などを行い、それを維持して本番に臨みました。

人間というものは、体に凹凸があったり、衣類をまとっていたりしますが、これは少なくない音を吸収します。この人間による吸音を甘く見ていました。

当日のkyon_mmさんのセッションは大盛況で、会場は満席。満席の人間による吸音効果で、いざ音を鳴らすと全然聴こえないのです。知識としては知っていましたが、ここまで明確な影響が出るものとは思いもよりませんでした。これが、音楽を主体とするイベントであれば、とりあえず爆音を出しておけば問題ないわけですが、今回はkyon_mmさんのサポートですから、肝心のトークが聴こえなければ意味がありません。トークを邪魔せず、それでいて音楽の存在感も出るボリュームをその場で調整するのは難しかったです。

最後に

実は、今回のDJは自分としてもかなり「うっ」となるチャレンジで、前述の権利処理をどうするか、などの議論もあって一度はお断りしました。ですがkyon_mmさんが常に前向きで「新しいチャレンジっていろいろあって楽しいですね」と言い続けてくださり、最終的な発表までたどり着くことができました。

とても楽しい、貴重な体験ができて、最終的にはとても楽しかったです。どうもありがとうございました。