エンジニアリングマネージャとして入社した最初の取り組みとして、エンジニア全員(およそ100人)と1on1をしました

はてなにエンジニアリングマネージャとして入社して2ヶ月と少し経ちました。

マネージャとしての「最初の100日」もいよいよ終盤です。

note.com

入社して最初の取り組みとして、およそ100人のエンジニア全員との1on1を実施しました。

なぜ全員とやろうと思ったか

イギリスの人類学者であるロビン・ダンバーによって提唱された「ダンバー数」というものがあります。

これは、人間が安定的な社会関係を維持することができる人数の認知的な上限について提案された数字です。大雑把に説明すると、人間が相互に認識しあって社会関係を築ける人数はおよそ150人程度、というものです。

要するに1つの組織でお互いに顔見知りの状態で活動ができる集団の人数上限が150人前後であるということです。

このエントリを書いている時点で、はてなのエンジニアはおよそ100人ほどいます。つまり、はてなのエンジニア組織は、まだダンバー数の内側の規模であるということです。

これは、わたしがはてなの技術組織のエンジニアリングマネージャとしていろいろなことを考えるに際して、ダンバー数が示す数としては、まだ全員の顔や人となりをメモリ上に載せたまま活動を行える範囲内にあるということだと考えました。

ダンバー数の内側にまだ組織があるとはいえ、それでも100人を超える組織です。なにか物事を決めるときに、全員がばっちり納得できる決定ができるのが理想ですが、現実はそうではない場合もあります。ある人にとってとても喜ばしい判断が、別のある人にとっては少し不満が残ってしまう、というのは組織全体に影響する意思決定の場ではよくあることです。自分もマネージャとして物事を考えていくにあたって、このようなシチュエーションの中で全体のバランスをとる判断をしていくこともあるでしょう。ただ、その際にも、まだ組織がダンバー数の内側にあるうちは、メンバーの個々の事情や、気持ち、表情を可能な限り意識しながら判断していきたいと思いました。

また、エンジニア組織のマネージャは、そこで活躍する人たちのキャリアについての責任も持っています。わたしたち全員が成長し、よりよいキャリアを築くためには、やはりそれぞれのやりたいことや得意なことを個別に把握して物事を考えていきたい。

このような気持ちから、まだ全員と話ができる状態である今のうちに、個別に会って話をしておきたいと考えたのでした。

どのようにやったか

エンジニア全員と1on1をしようというのは、入社前から頭にあったので、どのくらいの期間で終わりそうか簡単な見積もりをしました。

1人30分として、100人と実施するとトータルで50時間。1日6人で3時間使うとして、およそ17営業日。

現実的に1日6人というのは難しいので、無理のない範囲で半分の3人ずつとすると34営業日。

他の予定などで実施できない日があったとしても、さほど無理をせずとも試用期間である3ヶ月以内には余裕をもってすべて終われそうであるということがわかりました。

やれそうであるならやりましょう、ということでメンバー全員に「全員と1on1をやります」というアナウンスをしました。

次に、メンバーを10人ずつのグループに分けました。1グループ(10人)との1on1を1週間で実施します。毎週末に、翌週実施予定のグループのメンバーとのカレンダー調整をして、それを毎週繰り返せば10週ほどですべてが終わる、という目安でスケジュールを考えました。

5月8日から開始して、全員との1on1が終わったのが7月9日。実際の期間は9週間でした。ほぼ見積もりのとおりに完走できました。

なにをやったか

1on1の目的は純粋な情報収集です。エンジニアリングマネージャとして自分のことを知ってもらう目的もあったため、これから自分がやろうと思っていることを簡単に説明はしましたが、それは最小限に留めました。まだ、タイミングとして自分の我を出す時期ではありませんし、全員の話を聴き終わらないうちに戦略だのを考えても効果があるとは思いません。

メンバーそれぞれがどういう個性を持ったエンジニアなのか。はてなでこれまでどのような仕事をしてきたのか。これらを教えてもらうことに時間の多くを使いました。

やってみてどうだったか

1on1のグループ分けは、入社の古い順にしました。これは、ベテランの人から組織全体の概観を聞いておくことで、中盤以降の若手の人たちとの会話に入る前に、その人たちの様子をある程度事前に頭に入れた状態にしておきたかったという目的がありました。

各チームの様子を知るだけなら、チームのテックリードと会話をすればおおよその様子はわかるのだろうと思います。ですが、全員と1on1をしたことで、それぞれの目線からチームや仕事がどう見えているかを聞くことができたので、実施前に想像していた以上に組織全体を立体的に知ることができました。

また、エンジニアのリストを眺めるだけではわからない、皆の得意分野や、志向について、グラデーション的に個性を知ることもできました。たとえば、ある人はiOSAndroid両方ができるけれど、iOSの方がやや得意であるとか、仕事ではPerlを書いているけれど本当はC#が好き、であるとか、そういう個性です。もちろんたかだか30分ですから、皆の個性のほんの触りの部分しかまだ知ることはできていないと思いますが、それでもメンバーリストを眺めていただけではわからないことをたくさん教わることができました。

最後に、自分にとって1on1の一番の成果は、エンジニア全員と「顔見知り」になれたことです。少なくとも最低1回は、直接対話をしたことがある、という状態は、今後マネージャとして、メンバーに声をかける際に、自分の心理的な負担を大きく軽減できます。

なにか相談がしたいと思った際に、知らない人に「はじめまして」と声をかけるのと、「先日の1on1ありがとうございましたー!」と声をかけるのとではまったく様子が違います。リモートワークが主体になっている現在の就業環境の中では特にこれは重要です。

最後に。これは自分からはわからないことですが、メンバーの信頼貯蓄が、なにもしない時と比べてわずかでも貯めることができているといいなぁ、とも思っています。そうなってるといいなー。