技術組織のタレントマネジメントと、タレントの定義を考える

仕事のひとつとして、技術組織におけるタレントマネジメントに取り組んでおり、勉強したことを簡単にまとめておく。

タレントマネジメントと一口に言っても、その類型にはいろいろとあり、マッキンゼーの"War for Talent"が書籍も出版されていてよく知られている。これは、簡単に説明すると、社員を成果の発揮度でA, B, Cに位置づけ、組織をAの人材で充足し、Cはなるべく数を減らす、という戦略をとる。選別の要素の強いマネジメント手法であり、あまり日本型の人事管理には馴染まない。そもそも、組織のすべてをA人材で満たす必要はあるのか、A人材のみで充足するためのコストに見合うのか、といった議論もある。

マッキンゼーの"War for Talent"は選別的なアプローチであり、逆に人材すべてをタレントとみなすマネジメントは、包摂アプローチと分類される。

他にもタレントマネジメントの類型はいろいろとあるのだが、技術組織としてはSTM(Strategic Talent Management)を参考とすると良いのではないかと考えている。

STM(Strategic Talent Management)とは

STMの概略は以下のとおりである。

  • 組織(チームや部門)のキー・ポジションの体系的な特定を起点とする
  • キー・ポジションの現任者や後任候補者を輩出するタレントプールを開発するための一連のプロセスをタレントマネジメントとして定義づける

STMにおけるキー・ポジション

  • リーダーシップの発揮という観点に限らない
  • 戦略達成にとって重要度の高い職能(function)・技術(technology)・地理(geography)によっても規定され、それが時間変化に応じて変更される場合がありうる

ジャストインタイムの人材配置

社内のさまざまな組織(部門, チームなど)の戦略の実現に必要なケイパビリティを特定し、事業計画や人員計画に対して適材適所かつ適時適量の人員配置を行えるように、技術組織として育成(場合によっては採用)の枠組みをつくる。また、社内の人材をタレントプールとして管理し、関係者がひとつのデータソースを参照して適材適所の議論が行えることを目指す。

タレントの定義

タレントマネジメントに取り組むにあたって、そもそも"タレント"とは何であるかを考えてみる。

タレントという概念の解釈には、いくつかの論点がある。

Dries(2013)*1によると、タレントの解釈には5つの論点があり、それぞれに両義的な性質がある。タレントの解釈は、組織によってまちまちであるので、この5つの論点それぞれについて、どの立場をとるかを定めて組織におけるタレントの概念を描出する必要がある。

何が、あるいは誰がタレントなのか?

  • 主観 (object) - タレントを人そのものと考える
    • 後継者育成計画や組織によるキャリア管理の側面が強くなる
  • 客観 (subject) - タレントを人の才能と考える

従業員のうち、どの程度の範囲がタレントとなりうるのか?

  • 包摂 (inclusive) - 組織全員をタレントとみなす
    • 個別の従業員の強みに注目するアプローチ(strength-based approach)が重要
  • 選別 (exclusive) - 上位10%をタレントとみなす
    • 従業員を複数グループに分化させた人材アーキテクチャ(differentiated HR architecture)の構築が重要

タレントとみなされるための諸要素は後天的に獲得できるか?

  • 先天的 (innate)
    • 能力を持つ個人の特定手法や、採用・選抜のあり方の模索
  • 後天的 (acquired)
    • 熟達させるための学習・コミットメントや適合を高める施策の必要

タレントとして評価する際に重視すべき側面はなにか

  • インプット (input) - 個人の努力・モチベーション、キャリア志向
  • アウトプット (output) - 個人の成果物や業績、目標の達成度

タレントは環境に左右されるか

  • 移転可能 (transferable) - 環境に依存せず活躍できる
    • 組織外部からの引き抜きで充足可能
  • 文脈依存 (context-dependent) - 活躍のためには環境への適合が必要
    • コミットメントや適合の取り組みの構築が必要

技術組織におけるタレント

上記の5つの論点について、技術組織におけるタレントの定義を考えてみる。ここからはid:daiksyの個人の意見である。

  • 何が、あるいは誰がタレントなのか?
    • 専門職組織であるので、人そのものというよりは、人の才能に重きを置くとよいだろう
  • 従業員のうち、どの程度の範囲がタレントとなりうるのか?
    • 包摂の立場をとりたい
  • タレントとみなされるための諸要素は後天的に獲得できるか?
    • 技術組織は専門職の集まりなので、当然後天的に獲得可能な要素を扱うだろう
  • タレントとして評価する際に重視すべき側面はなにか
    • これは少しむずかしい。アプトプットに基づいて評価するのが主となるだろうが、インプットにおける要素も大事にしたい
  • タレントは環境に左右されるか
    • これも難しい。専門職を持つ人員としては、移転可能であるという立場を主としたいが、文脈依存の要素も場合によっては考慮する必要があるだろう

参考文献

  • 『日本企業のタレントマネジメント』石山 恒貴、中央経済社、2020年
  • 『タレントマネジメントをめぐる類型化に関する一考察』柿沼英樹、流通科学大学論集―流通・経営編―第 35 巻第 1 号,59-72(2022)
  • 『企業におけるジャストインタイムの人材配置の管理手法の意義--人的資源管理論でのタレント論の展開--』柿沼英樹、経済論叢(京都大学)第 189 巻第2号,(2015)

*1:Dries, N. (2013). The psychology of talent management: A review and research agenda. Human Resource Management Review, 23(4), 272-285.