コロナ前にたびたび集まって酒を飲んでいた友人たちと、このご時勢で集まれなくなったのだが、彼らはなにやら最近登山に熱中しているらしい。そんな様子をしばらく対岸から眺めていた。
事の起こりは3月の末。その友人たちと琵琶湖疏水を大津から蹴上まで歩くハイキングが計画された。長らくの在宅勤務の運動不足解消に、近頃は自宅の近所を1~2時間歩くなどをしていたのだが、毎回同じようなコースを歩き続けて飽きていたので、気分転換にとても楽しみにしていた。
そのうち、友人たちは疎水歩きの前座として2, 3時間ほど登山をするのだという。京都から大文字山を越えて大津まで行き、そこで自分と合流するのだとか。いったい登山とはそれほど楽しいものなのか。物は試しに、自分もその行程に混ぜてもらうことにした。
どうせやるならと登山靴とハイキング用ザックを買い、参加したその様子がこれである。
大文字山・如意ヶ岳・長等山 / だいくしーさんの大文字山(京都府京都市左京区)・如意ヶ岳・長等山の活動データ | YAMAP / ヤマップ
この登山のあと、さらに3時間ほど疎水沿いを歩き、当日はクタクタになったのだが、思いの外楽しかった。
さて、実はこのとき、自分はこれまで勤めていた会社を退職し、1ヶ月ほどの有給消化に突入するというタイミングだった。本当は思い切って日本縦断旅行などしたかったのだが、コロナの感染者数の傾向がどうにもきな臭い。そこで方針を変更し、この長期休暇で何度か登山をしてみようと思い立った。
最初に登ったのは摩耶山である。友人が公開している山行計画を頼りにルートを決め、その友人にルートをレビューしてもらいつつ行ってきた。
摩耶山 / だいくしーさんの活動データ | YAMAP / ヤマップ
これがとても天気がよく、歩いたコースもトゥエンティクロスという沢沿いを何度か渡渉しながら歩く楽しいコースで、また山頂で食べたカレーと生ビールが最高で、完全に登山のおもしろさにハマってしまった。
しかしこの摩耶山の山行は同時に課題の残るものでもあった。後半、バテてしまって、登山とはこんなにしんどいのか、という思いもしていたのである。どうやら、自分は街中を歩くのと同じ感覚で山道を歩き、余計な消耗をしていたらしいということがその後調べてわかった。
登山はいかにペースを保ちながら、長時間動き続けるか、という運動である。登りの際は歩幅を小さく、定期的に休憩しながら自分の筋力やスタミナの消耗を最小に保ちながら行動していく。
そうとわかれば、今度は「山の歩き方」を試してみたい。もう次の山に行きたくて仕方がなかった。
また、やるならせっかくの休暇だしとことんやってやろう、と1ヶ月の登山ロードマップを考えた。ゴールは、4月後半にテント泊をやること、である。
この日から、2, 3日おきに山に登り、山に登っていない日は梅田の石井スポーツでテント泊に向けたギアを買い集める、という暮らしがはじまった。
摩耶山に次いで須磨アルプスに行ってきた。
鉢伏山・旗振山・鉄拐山・高倉山・栂尾山・横尾山・東山 / だいくしーさんの活動データ | YAMAP / ヤマップ
前述の「山の歩き方」を練習する目的も兼ねている。 たしかに、歩き方に気を配るだけで疲労度が全然違うことがわかった。
これなら、六甲から有馬へ抜けるルートも歩けそうである。
この「六甲から有馬」というのは、六甲山を登る定番のコースである。阪急の芦屋川駅からロックガーデンを通り、六甲最高峰を登頂した後、有馬温泉へ降りる。距離にして14kmほど。コースタイムは約7時間という長丁場だ。
こんな長い距離を本当に歩けるのか不安だったが、須磨アルプスの様子だと行けるような気がしてきた。
飲料水や行動食、途中の食事のためにクッカーやバーナーといった調理器具など念入りに準備していざ決行。
なかみ山・六甲山 / だいくしーさんの六甲山・なかみ山の活動データ | YAMAP / ヤマップ
これまで何度か旅行に行ったことのある有馬温泉へ徒歩でたどり着いた、というのが感動的で、大きな達成感を得られる山行だった。
こうなったらいよいよテント泊である。
ぼくが利用しているYAMAPというアプリには、いくつかの条件を達成すると獲得できる「バッジ」という機能がある。Playstationのトロフィー、Xboxの実績解除、みたいな遊びである。 その中に「六甲ハイカー」というバッジがある。これは六甲山系の決められた7つの山を登頂すると獲得できる。この六甲ハイカー獲得の登山を重ねながら、テント泊の準備を進めていく。
最初、金剛山の山頂近くのキャンプ場を目指した登山を考えていたが、金剛山は近畿では珍しい標高1,000mを超える山である。自分が実行を考えていた4月中旬は、天気予報によると気温が低めで、金剛山山頂付近は夜になると0℃近い気温になる日もあるという。
最初のテント泊でこの条件はすこし不安が大きいので、別の場所を探していると、金剛山より標高の低い生駒にも山上にキャンプ場があるらしい。そこを予約することにした。
テント泊は荷物が多い。テント、マット、寝袋、衣類、調理器具、食料などなどを60Lを超えるサイズのザックに詰める。衣食住すべてを背負って山を登るわけだ。自分の荷物をザックに詰めたところ、20kg近くになった。これには焚き火台やビールなど、登山には必須ではないものもたくさん含まれた結果こうなるわけだが...。必須装備だけに絞っても15kgくらいにはなる。
生駒山には石切から登る3時間ほどのルートを当初計画していたが、この重さを背負っての登山はどうなるか想像もつかないので、生駒駅から2時間ほどでキャンプ場に着く短いルートに変更した。結果的には、この重さを背負っての行動時間は、今の自分の体力では4時間くらいが限界、ということが実際歩いてみてわかった(キャンプ場からの帰りのルートでは山頂を経由する3時間のコースをとったことで感覚を得た)。
生駒山麓公園でテント泊登山(の練習)! - 鐃速日山・生駒山 / だいくしーさんの活動データ | YAMAP / ヤマップ
キャンプそのものはこれまでに何度か経験があるが、一人のテント泊登山はそれとは完全に別物だった。 自身の体力も含む、すべてのリソース配分は自分の責任で、なにかそこで致命的なエラーが生じると最悪下山もままならないことになるという緊張感がとても大きい。テントで寝るときにも、自分ひとりというのはとても心細く、ほとんどまともに眠れなかった。
このようにまぁまぁ過酷な体験ではあるのだが、それを凌駕する楽しさもあった。
キャンプそのものは普通に楽しいし、やりきった達成感も格別である。あの重量を背負っての山行の記憶を思い出すと今でも「二度とやりたくない...」という気持ちになるが、おそらく近いうちにまたやってるだろう。
その後、無事に「六甲ハイカー」バッジも獲得することができ、長期休暇の登山ロードマップは無事完走できたのである。