出社回帰の話題を眺める地方在住エンジニアの憂鬱

ある会社が、フルリモートから定期的な出社へと方針を変更するとのことで、インターネットがざわざわしている。

ネット上でいろいろな意見が交わされているが、どうも首都圏に在住している人と、地方在住の人とで温度感が異なるように思い、嗚呼、またか...と憂鬱な気分になる。

東京一極集中という状況は今にはじまったことではなく、そもそも人口の規模が大きく異なるのであるから仕方がないこととはいえ、ソフトウェアエンジニアとして20年とすこし生きている自分のキャリア選択は、常に「このまま地方に住み続けるか、東京に行くか」という天秤の上に乗せられ続けている。

東京に引っ越したほうが、どう考えてもパイは大きいというのは分かっていつつも、生まれてから今まで生活し続けている地元の愛着も捨てがたく、そうそう割り切れるものではない。

しかし、これまで地元にこだわって住み続けている自分も、自宅を賃貸にし続けているのは「いざとなれば東京に行けるように身軽にしていたい」というのが理由であり、そういう意味でも人生の選択のいくばくかがこの問題で縛られている。

地方在住である自分は、しばしばこういう状況の中で、地方特有の経験をし続けている。

昨今は採用活動もリモートにシフトしつつあり、ほとんどこういうケースは無くなったが、コロナ禍以前に受け取るスカウトメールはだいたい「来週あたりに渋谷のオフィスにお越しいただけますか?」のような、さもソフトウェアエンジニアは全員東京に住んでいるかのような文面を読んでは、苦々しい気持ちになった。

東日本大震災があり、一時期、東京一極集中がリスクであるという風潮が強まった頃、いろいろな会社が地方に拠点を分散させる、という動きがあった。

これでようやく、地方での選択肢も増えるかなと期待したが、みんな一瞬で東京に帰っていき、たとえばそのころに設立された京都オフィスなどは「日本で働きたい外国人を受け入れる拠点」のようなものに姿を変えた(ように見えた)。

インターネットで見かけるおもしろそうなカンファレンスや勉強会はだいたいが東京で、真似をして地方でも同様の勉強会を開催してみるが、やはり集客がいまひとつなので、人口規模の違いはいかんともしがたいなぁ、とも思う。なので東京を中心にさまざまなことが動くのは、仕方がないとは思う。

コロナ禍で、大きく潮目が変わったと感じた。

今後もフルリモートを続ける、と標榜する企業が増え、カジュアル面談はビデオ通話でほとんどすべて行われるようになった。勉強会もオンラインで配信してくれるものが増えたので地方にいながら参加できる。

いよいよテクノロジーが今までの問題を解決するのか、と思った。

けれど人々は「コロナに打ち勝った証」とまた同じ場所に集まり始めた。

同じ場所に集まってディスカッションできるカンファレンスは、めちゃくちゃ楽しい。それはそうだ。仕方がない。

方針を変え、企業は次々と出社回帰を掲げる。これも地方オフィスに週1回出社、ならまだいい。話によっては、新幹線に乗って東京オフィスに出社しないといけない、という話をよく聞く(人を同じ場所に集めたいのが目的なのだからそれはそうなる)。

こうして、「週1日くらいいいじゃない」と話す東京の人と、「実家の近くに家を建てたのに...」と嘆く地方の人の話との温度差に頭がクラクラするのであった。