準備ができている人間にしか機会は来ない

先日、DevLOVE関西の200回目を記念するイベントで登壇してきました。 登壇内容を考えるにあたって、大きく2案あったので、没にしたほうのネタを簡単にブログに書いて供養しておきます。

ロックバンドの成功の証は、日本武道館でのライブである、みたいなイメージがなんとなくあります。 地元の小さなライブハウスで、客席に友人しかいない状態で演奏するところからはじまって、そこそこ有名になり、対バンに呼ばれるようになって、ソロでライブハウスが埋まり、Zeppなどの大きなハコでやるようになって、そういうステップアップを繰り返した先に、ついに武道館を満員にする。

そのときの彼らの気持ちは、どんなものなんだろうか。

自分にとって、かつて武道館のような舞台がありました。 今は会場が変わりましたが、かつては毎年目黒の雅叙園で開催されていたデブサミ。ここは自分にとっての武道館のようなものでした。

2010年ごろに、地元の小さなITコミュニティの勉強会に顔を出すようになり、懇親会で飛び込みLTなどをやるようになります。ちょうど、ロックバンドが地元のライブハウスで友だちにチケットを買ってもらって演奏しているような状態でしょうか。

そんな時期に、あるとき会社を休んで、新幹線に乗って行った雅叙園デブサミは、自分にとっての日本武道館の舞台のようなものでした。 あの壇上でトークをするには、いったいどんな活躍をすればいいのだろう。地元のコミュニティの懇親会LTと、デブサミの舞台が地続きにあるとは、とても思えませんでした。

もし、自分があの舞台に立てたら、どんな気持ちになるだろうか。きっと高揚して、興奮して、叫びだしたくなるような気持ちになっているに違いない。

そんなことを想像しました。

それから10年ほどたち、Developers Summit 2020に招待スピーカーとして登壇する機会を得ます。会場は雅叙園でした。

日本武道館のライブの幕が上がる瞬間のロックバンドの気持ちはどんなものでしょうか。

デブサミにいよいよ登壇した瞬間の自分は、かつての想像とはまったく違ってとても冷静でした。もちろん「ついに雅叙園デブサミに登壇したかー」という感慨はありましたが、それ以外は、「いつもどおり」だったのです。 いつものように準備をして、いつものように練習して、そして少しばかり緊張しながら、いつものように登壇する。

これまで何十回と繰り返してきたことを、少し大きな舞台でいつもどおりにやる。これが、憧れの舞台の上での自分の状態でした。

おそらく日本武道館に立ったロックバンドも、同じだと思います。いつものようにプロとしてお客さんの前で演奏する。

そういう準備ができているからこそ、この場に立つ機会を得られるのだろう。そう思いました。

学生のころ、小説家になりたいと思っていた時期がありました。自分の著書が書店に並ぶのってどんな気持ちなんだろう、といろいろな想像をしました。

2023年に単著を執筆する機会を得て、自分の著書が書店に並びました。もちろん嬉しかったですが、かつて想像していたような大歓喜ではなく、これもデブサミと同じく「いつもの延長」でした。自分が寄稿した記事がWebメディアに掲載される。自分の書いた文章が掲載された雑誌が書店に並ぶ。共著が出版される。そういうこれまでの活動の繰り返しの先に、「単著が書店に並ぶ」という出来事がありました。

かつて想像した大きな舞台や、大きな仕事は、なにか大きな飛躍があってたどり着くものではなかったのです。日々の生活や毎日の仕事の繰り返しの中で、少しずつ飛躍があり、その「いつものこと」を積み上げた先に、少しずつ大きな舞台や大きな仕事があるのです。

それをやるための経験と準備ができているからこそ、その機会はやってくるし、いつもどおりそれをやることができるのです。

というのを自分のコミュニティ人生を少し振り返って思うのでした。