発端
今年の頭に、講演依頼をもらった。 専門学校で、学生さん相手に業界動向やこれからのために何を学ぶべきか、といった話をしてほしいとのこと。
当然、快諾したのだが、持ち時間を尋ねたところ「90分」だという。
人前で話す経験、というのは、おそらく豊富な方だと思う。5分間のプレゼンであるライトニングトークをはじめとして、カンファレンスで40分ほどの枠をもらって喋ったこともあるし、パネルディスカッション形式の登壇も3回ほど経験がある。
だいたい年に5, 6回は、なにがしかのIT系のイベントで登壇していると思う。
が、それでも90分という持ち時間を聞いてぞっとした。ライトニングトーク18回分。カンファレンス約2回分の時間をしゃべり続けなければならないのである。
90分という持ち時間を聞いて、専門学校で開催される講演会であるから、学校の授業1コマ分の時間に相当するのだろうと気づいた。これまでだらだらと聞いていた過去の学校の授業の様子を思い出し、こんなことを毎日やっている学校の先生は、実はたいへんな仕事だったのだな、と思った。
とはいえ、引き受けてしまったからにはやり遂げなければならない。
IT系イベントの懇親会でやるライトニングトークなどであれば、前日ないしは当日にさっとスライドを作ってやってしまうこともあるが、これは入念に準備しなければ、とても務まらない。
そこで、一度基本に立ち返ってきちんとしたプレゼンの作り方をもう一度整理しようと思う。
マインドマップでアイデアを列挙
まずは何を話すべきか。そういったトピックをマインドマップを使って列挙して行こう。
今回の講演のテーマは、「業界動向と学生が学ぶべきこと」である。 僕はこれまで、SI、ソーシャルゲーム、Webサービス、といった具合に、大雑把にこのような経歴を渡り歩いている。それぞれの業界動向について、話をしていけばよさそうだ。
マインドマップの中心にテーマを書き、丸で囲む。そこから、SI, ゲーム, Webサービスと3本の枝を生やしていこう。
それぞれの枝について、さらに連想するキーワードの枝を生やしていく。なるほど、書いているうちになんとかなりそうな気がしてきた。
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だいたい時間の長いプレゼンを作る時は、いつも最初にマインドマップを書いて頭の中を整理するようにしている。オファーを受けると、そこから2, 3日は通勤時間で歩いているときなどに、そのテーマで何を話そうかぼんやり考え、それを週末などに一気にマインドマップにまとめてしまうのだ。
マインドマップはデジタルで書けるツールもいくつかあるが、個人的には手書きで普段持ち歩いている手帳に雑に書いてしまうのが一番しっくりくる。
目次(アジェンダ)を作る
マインドマップでキーワードが列挙されれば、それを元に体系的に整理してスライドの目次(アジェンダ)を作る。
ここでは、講演時間の事は考えない。とりあえず「話したいこと」を整理して、すべてを目次にしてしまうのだ。最初に目次を作り、それを眺めながら順番を入れ替えたりしていく。順番の根拠は、やはり最初はキャッチーな話題からはじめたほうが、聴衆の興味を惹きつけるだろうとか、そういう観点で話す順番を決める。
最初は90分も話すなんて無理だと思っていたが、ここまでくると、ずらりと並んだトピックによって、なんとかなりそうだ、という気持ちになってくる。
時間配分を考える
目次ができたら、それをどういうペースで話すのか時間配分を考えよう。
僕の場合は、5分間のライトニングトークを基準に考える。
ライトニングトークを何度か経験した人は感覚的にわかると思うが、5分間しか時間がないのでだいたいあの場ではワントピックについてしか話せない。それでも、うまくやらないと時間が足りなくなってしまうくらいだ。
つまり、今回の90分という時間はライトニングトーク18回分に相当するので、最低でも18個のトピックを用意すれば時間的には100%凌げる、ということだ。
実際には自己紹介したり、トピックごとに緩急をつけたり、閑話休題的な話を差し挟んだり、途中で水を飲んだりすることになるから、18個全部話すことはできないだろう。とはいえ、18個ネタを用意しておけば、あとはその場の時間配分などによって削ることで時間を調整すればよいだけである。
18個のトピックを用意したら、優先順位をつける。どうしても話しておきたいことと、時間の進み方によっては削ってもよいものを選り分けるのだ。
スライドを作る
話す内容が決まったらあとはそれをスライドに落としこんでいこう。
ぼくはだいたいこの「スライドを作る」という段階で、小ネタを仕込んで笑いをとりにいったりする。
笑いをとりにいくときは充分注意せねばならない。特に最初の「つかみ」の部分は、その後のプレゼンの空気感に大きく左右する。
笑いは、たとえば講演会場が関東か関西か、集まる人はスーツかギークか、などによってウケるウケないがずいぶん変わる。関西で受けたネタを関東でまったく同じようにやっても、さっぱりウケないなんてことはざらである。
これはもう経験によって「場の空気を読む」という力を身につけるしか無い。ようするに場数を踏んで、何度か実際に「すべる」経験をしないと身につかないと思う。
学生向けの講演ということで今回は難しさがある。以前会社説明会で40分ほど話したとき、「就職活動中の学生と社会人」というただでさえ緊張度の高い関係性であることも相まって、用意したネタがすべてスベる、というとてもつらい経験をしたことがある。
今回はさすがにあそこまでの緊張したプレゼンにならないだろうが、学生と社会人では文化がずいぶん違うので、注意が必要だろう。少なくとも業界の自虐ネタなどは絶対にウケないだろうと思われる。
練習・練習・練習
スライドが完成したら、あとはひたすら練習だ。練習によって時間配分などを体に染み込ませるのだ。
何度か練習すると、20分経過した時点でスライドがここまで進んでいれば、よいペース。などということがわかってくる。当然、まったく同じペース配分で喋れることなど練習中であってもありえない。ましてや本番では自身の緊張もあって、練習とはさらに異なるペースで話は進んでいく。
なので、15分、30分、45分、などのチェックポイントごとに、どこまでスライドが進んでいるべきか、というのを定めておいて、それを目安に話すペースを調整すればよい。
90分の講演の練習ということなので、当然通しで練習すれば毎回90分かかる。そう何度もできるボリュームではないから、トピックごとに分割して練習し、最後の2回ほどを通しでやる、というのがよさそうだ。
本番で喋る
準備ができたら本番で喋るだけ。
今回の講演は、まだ本番を迎えていないが、今までの経験から少しポイントを書いておこう。
自分の講演の様子を録画して、後から見るとわかるのだが、だいたい当日は緊張しているので、普通より早口になる。
緊張すると、早くこの場を終わらせたい、という意識が働くのか、自分が思っている以上に早口でしゃべっている。なので、意識的に「こんなにゆっくり喋ったら、ゆっくりしすぎではないか」というくらいの気持ちで喋ると、実は丁度良い速度になっていると思って良い。
ライトニングトークなどはスピード感が面白かったりするので、あえて意識せずにわざと早口で喋ったりするが、講演でそれをやると時間配分がめちゃくちゃになるのでやめたほうがよい。
あと、気をつけるポイントとしては、「沈黙を恐れない」ということである。
出来の悪いプレゼンを聞いていて一番気になるのは、「つまり、あー、このグラフを見ていただきたいのですが、えー、この青い部分が示すとおり、そのー」という感じで、ひたすら声を発し続ける、ということだ。
この場合は「つまり、このグラフを見ていただきたいのですが、この青い部分が示すとおり」とそれぞれの言葉を言い切ってもらいたい。するとセンテンスとセンテンスの合間に、当然わずかな沈黙が発生することになるが、多少沈黙の時間があった方が、聴衆にも緊張感が生まれて良いくらいなのである。
次になにを喋ろうか、と考えているときに、人は沈黙になるのが怖くてつい「あー」とか「えー」と言ってしまう。聴衆はなにも登壇者の声を聞きたいわけではなく、話を聞きたいのだから、講演中常に声を出していなければならない理由などどこにもない。
話す内容を考える合間や、水を飲むときなど、遠慮なく沈黙すればよい。沈黙の時間など、自分が思っているほど聴衆は気にしていない。
と、ここまで偉そうにプレゼンのコツを書いてきた。これで来月の講演会のハードルが上がった気がしなくもないが、上がったハードルの下をくぐり抜けるスタイルで、なんとか頑張って90分喋りきろうと思う。
最後に、プレゼンのオススメ本を紹介しておこうと思う。
パブリックスピーカーの告白 ―効果的な講演、プレゼンテーション、講義への心構えと話し方
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