中学生だったある日のこと。父親がレンタルビデオで一本の映画を借りてきた。 父親の晩酌のお供として再生されたそのビデオはロボットアニメ映画だった。
"機動警察パトレイバー the Movie(以下P1)"だ。
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その翌日、ぼくはお小遣いを握りしめて書店へ行き、ゆうきまさみによるコミック版を何冊か購入。そこからどっぷりはまってしまった。
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あの頃、10年も未来のことだと思っていた、作中の舞台である1999-2000年はいつの間にか過ぎ去り、そこからさらに15年も経った。
パトレイバーの実写化は、ファンにとって待望の作品だった。
もともと、現実の世界に土木作業用のロボットがあって、それを取り締まる警察ロボットがあったら、というコンセプトであるため、SFといっても我々の日常と地続きの世界が舞台になる。そこで繰り広げられるのは、ロボット同士のバトルというよりも、人間ドラマが主だ。
実際、OVAやコミックのエピソードでは、レイバーがまったく登場しない回もある。そういう意味で、アニメ版公開当時からこの作品の実写は比較的容易ではないかと思われていた。
今回の実写化で全国を行脚したあのレイバーキャリア。あれを傍らに置いて、特車二課の面々がおもしろおかしく日常を送る様を「実写版」と銘打って公開したって別に構わないのだ。我々ファンにとって、パトレイバーの実写はそういうものでよかったのだ。
TNGパトレイバーの感想
今回の実写化。劇場長編版に先立って先行公開された全7章の短編シリーズの第1章を観て、ぼくはこの作品を追うのを諦めた。
続編とうたっておきながら、主人公の名前がアニメ版が"泉 野明(いずみ のあ)"で実写版は"泉野 明(いずみの あきら)"という残念なセルフパロディ。オープニングで延々自虐を繰り返すシバシゲオのナレーション。これはぼくが観たかった実写版ではなかった。
そう諦めていたのだが、長編版は"機動警察パトレイバー the Movie2(以下P2)"の直接の続編になるという。わずかな期待を胸に、長編版の前日譚となる第7章を観て、劇場に行こうと決めた。
結論から言うと、TNGパトレイバーの長編版は残念な出来栄えだ。 伊藤和典のP2の脚本を単になぞっただけのプロット。戦闘ヘリのパイロットは、戸籍上はすでに13歳で死亡していてまるで帆場暎一の劣化版だ。
ただ、百歩譲ってこの実写版をファンディスクと捉えれば、P1とP2の印象的なエピソードをなぞったプロットづくりも我慢できる。ただいかんせん、この映画は細かいところが気になりすぎる。
敵のステルス攻撃ヘリ、テイルローターが見当たらないけどなんであれで本体が回転してしまわないのか、とか、河川敷でヘリの補給してて、一般人に写メとか撮られまくってるシチュエーションなのにやってきたパトカーはなんでたった1台なのか、とか。
前半のハイライトとなる突入シーン。なぜ機動隊とかじゃなくて特車二課が突入するのか、という理由が、「突入するための確固たる状況にないから、その状況を作るために特車二課が先に行く」みたいな説明がなされるのだけど、いざ潜入してみたら目の前に例のステルスヘリが置いてあって、こんな物的証拠があるのに突入できない警察無能すぎるだろ、とか。
ステルスヘリと自衛隊の戦闘機のシーンもなぜかちっともワクワクしない。 P2で、首都上空に戦闘機がやってきて、それを撃墜するためのスクランブルシーン。あれは自衛隊の端末がハックされてるから実際には敵機など存在しない、というシーンだから、我々観客はひたすらCICのモニターの光点だけを観るのだけど、あの光点を観るだけなのにあのシーンは最高にハラハラしたじゃないか、なんで目の前に実写の戦闘機が飛んでるのに、今回は全然ワクワクしないんだよ!!
アニメと実写の情報量の制御
ニコニコ超会議で、庵野秀明がドワンゴの川上会長との対談で、「アニメは絵の情報量を自在に制御できるが、実写だとそうはいかない」という旨を語っていた。
TNGパトレイバーの残念さは、すべてこの一言に集約できるような気がする。
同じ脚本でも、アニメだったらP2ほどではないにせよ、それなりに鑑賞に耐える作品になったんじゃないだろうか。
たとえば河川敷にパトカーが1台しか来ないシーン。あれなど完全に「絵の情報量の制御」に失敗した例だといえる。あのシーケンスをアニメで作ったとして、本当に押井監督は実写同様、パトカー1台だけの絵作りなどしただろうか?
特車二課が突入するシーン。ヘリと戦闘機の空中戦。これも、絵の情報量が圧倒的に足りないがために説得力が欠けてしまっているのだと思う。アニメは、絵の情報量を制御できるので、ある程度脚本が薄くても作品に説得力が出せる。一方で、実写は絵の情報量が極端に制限されるので、その分脚本を厚くするとか、俳優の演技(表情や仕草など)を用いて情報を足さないといけない。筧利夫はいい役者さんだけど、演出方針としてその演技力を活かせる絵作りになっていなかった。
今回のTNGパトレイバーから感じるちぐはぐさは、アニメ用の脚本で実写を撮ってしまったことにあるのではないか、と思った。
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